埼玉県立近代美術館 「MOMASの扉」の概要

 今の子どもたちにとって、「自分の頭と体を使って体験すること」ができにくい分、より重要になってきていると思います。
 動物を自分のひざの上に乗せ、そのあたたかさやにおい、ぶるぶる震える感じを実感できる体験ができ、それを表現できるゆったりした時間」というのはいいですね。 yamamizu

 
f0234598_10245355.jpg4月からスタートした新規事業「MOMASの扉」の概要をお伝えします。「教育美術 5月号にやまずみ日記として掲載されます」
 
 今回はまず二つのお話から始めたいと思います。この二つ、どうもつながりがあるように思えます。
私は、朝、ラジオをよく聴きますが、海洋冒険家・白石康次郎さんの話がとても面白かったので紹介します。要約すると「孤独感は環境で生まれるのではなく、自分の心の中で生まれる」ということ。彼はたった一人でヨットに乗り、世界の海を航海する冒険を行っています。彼は「たった一人、夜の海を漂っていると孤独になりませんか?」という質問に、「孤独ではないですね」と答えていました。そして、「夢、希望、家族、仲間、これから先自分がどうしたいのか」すべて自分の中にある。だから「孤独ではない」と話していました。逆に、六本木の交差点にいたとしても「夢、希望、・・など」を見いだせなければ、「孤独」であるとも話していました。とかく外に原因や理由などを持って行きがちな私たちの意識。そのあたりにパンチをくらった気がします。




先だって当館で行われた「つみきのいえ」の上映会は、沢山の方々でにぎわいました。皆さん口々に「いい映画ですね」と感想を述べていました。この映画のストーリーを私なりに要約すると「すべての思い出(記憶)が私自身を作り上げている。」となります。どうも、どこか根のところで先の話とつながっているようです。どこでつながっているのでしょう。この点をまたまた私なりに要約すると「価値は一人ひとりの心の中で生まれる。それは、生きる原動力。」となります。おまけをつけると、「その点を見失って生きているのが現代を生きるわれわれ。」なのではないでしょうか。そんなことを考えながら仕事をしている今日この頃です。

 さて、開始して八年を迎えた「土曜アートの森」をリニューアルし、今年度「MOMASの扉」をスタートさせました。「土曜アートの森」は、学校の週休二日制を受け、子ども達が美術館や美術と出会う機会と場を提供することを目的にスタートした事業です。毎週土曜日に、様々なプログラムが展開されてきました。今では、子どもの頃参加していた方が大人となり、ボランティアとして当館事業に協力してくださるようになりました。
では、「今回のリニューアルのねらいはどこにあるのか?」という点についてお話します。
第一に、「子ども限定」から「より幅広い年齢層の方々へ」美術と出会う機会と場を提供することをねらいとしました。

 美術や美術作品との関わり方、楽しみ方は個に根ざしていますから多様です。「ねばならない」といったものではありません。ただ、「関わりたいけど、どう関わってよいのかわからない。」といった思いでいる方や、「知識がないと楽しめない・・・」、「特殊な人たちの世界だから・・・」といった先入観が邪魔している方々には「こんな関わり方をすると楽しいですよ」と提案することが必要だと考えています。こうしたことは、大人に限らず、子どもも、ティーンエイジャーも同じ。ならば、より幅広い年齢層の方々に扉を開くのは美術館として必要なことではないでしょうか。
 第二に、先ほど触れた「価値は一人ひとりの心の中で生まれる。それは、生きる原動力。」というメッセージを、プログラムを体験していただくことを通して、沢山の方々に伝えたいというねらいがあります。何でもかんでもお金や数字に置き換えようとする今の世の中にあって、見失いがちな大切なことを確認していただければと願っています。

 次にどんなことが行われるのか、二つの実例で紹介します。
 まずは、部活で訪れた中学生を対象とした、先行プログラムでの様子です。会場は常設展示室。参加者は二〇名程度。まず、カードを、任意に引いてもらいます。カードには、私が作品から受けた感じを短い言葉にして記しました。例えば、丸山直文さんの絵画《garden3》(2003年)には「ある夏の日のまぼろし」という言葉をつけました。
 この言葉から、中学生がどんな作品を選んだかというと、渡邉武夫さんの水彩《花火》(1937-1941年頃)という作品です。理由として「亡くなった子どもたちが、浴衣を着て花火を見に帰ってきた様子に見える。」といったストーリーを話してくれました。確かに一見、花火見物の楽しげな子ども達の様子に見える絵ですが、よーく見るとその姿はおぼろげです。なるほどなーと感じました。この作品は、戦前・戦中期の子ども向け絵暦原画二十三点の内の一つです。作者の意識がどのように働いていたかは分かりませんが、そうした時代に描かれた絵であるという点を、見事に言い当てているストーリーではないでしょうか。もちろん中学生は、何の解説も受けていません。こうした紹介の後、私が選んだ作品を紹介し、二つの絵について簡単にお話をしました。
 このプログラムを体験した中学生の感想です。
 「私は美術館へ行って作品を見るなど初めてで、どのように見ていいのか全く分からなかったけど、一番最初に配られたお題によって、なんだかものがとらえやすくなったような気がしました。自分で絵について話すのもよいことですが、他の人が大切にしている価値を学ぶのもとてもよいことだと実感できました」
「仲間の絵に対する感想を聞くことができました。僕と違う意見も多く、ひとつの絵を様々な方向から見ることができたので楽しかったです」。なかなか深いですねぇ。

 次に第一回「MOMASの扉」の様子です。テーマは「下を向いて歩こう!」。普段あまり意識していない足もとに広がる、形の世界。それをフロッタージュで写しとってみたら・・・、という六歳から十歳を対象としたプログラムです。8メートルの大きな紙で地面を写し取ってみたら、夜空が見えたり、お花畑が見えたり、川が見えたり・・・。夜空を走る機関車や、お花を描きたくなりました。どんどん描いているうちに、あっという間に14メートル。最後は「地面を立て」ました。寝転がって見てみると、ちょっと新しい世界が見えてきました。
参加者の感想です。
「こんなおもしろいことがあるとは、おもわなかった」
「よく下を向いて歩くんですけど、もようなどをあまり気にしていなかったので、楽しかったで
す」。
 参加者一人ひとりがつくるストーリーはまだまだ続きます。f0234598_10233210.jpg
 
 埼玉県立近代美術館 yamamizu
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by ge2a-ymmz | 2010-04-12 10:45


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